「火星―ウソカラデタマコト」展(東京大学総合研究博物館)

東大の総合研究博物館はいつも興味深い企画をやっている。しかも無料。
なんといっても日本で一番古くて権威ある大学だから、資料の量も質もかなりのもの。

タイトルの展示がお目当てで訪れましたが、この日も複数の企画が展示されていて、そのなかに『キュラトリアル・グラフィティ―学術標本の表現』展というものもあり、キュラトリアル・ワーク(=学術標本の表現)として、その概念についての導入がなかなか興味深い。(たとえば、キュレーター (curator)の直接の意味は、「学術的専門知識をもって管理監督を行う専門職、管理職」を指すが、語源は「cure」や「care」とも言われる。など)
東大のあらゆる分野での膨大な資料報告集をオブジェのようにして展示されているのもなかなか壮観でした。


・・ですが、時間もあまりなかったので、本題の「火星」に。

まず、専門的な知識のない私達が安易に想像する「火星といえば宇宙人」というお決まりのイメージ。
ここまで一般的になっているというのはそれなりの理由があるらしい。

19世紀の学者たちによる、調査報告、誤訳?、推測・・・そしてH.Gウェルズの小説「宇宙戦争」とその大きな反響、その後の作品への影響。

詳細は、私の知識と文章力では要約できないので割愛しますが、ポイントは、はじまりは科学的な発見と推測だったということ、そこから人々の空想やフィクションが生まれ、そしてそれが科学的な探査を進める原動力となったということ。

だから、「ウソカラデタマコト」。


以前、なにかの科学のお話で、そのものをつくったりそこに到達すること自体が最終目的ではなく、それを実現できるような研究・技術が進められることが、みんなにとってのハッピーをつくることにつながる。というようなことを話されていたので、そこは火星探査も少し似たところがあるような気がして。

この企画展での火星探査に対する態度は、あくまで「硬派」で(個人的な感想ですが)、そこにあるのはあくまで科学的な探究心。
ただ、それは「火星」という一番身近な惑星を調査することによって自分達の住む「地球」を知ることだとあり、なるほどたしかに。


そしてもうひとつこの企画の面白いところは、一般の来場者に現在計画中の火星探査、「MELOS計画」について意見を集めるコーナー。

「MELOS(ミーロスと発音)」とは?
資料にはこうあります

MELOSは単なる「のぞみ(1998年に打ち上げ〜2003年に火星軌道投入断念)リカバリー」ミッションではない。むしろアグレッシブに、火星科学の今日的課題とは何かを真剣に議論し、また世界の火星探査の中で堂あるべきかも考慮しつつ、2020年頃の実施を視野にその計画を策定しようとしている段階である。

そう、まだ内容の決定していない宇宙探査計画について、意見を集めるということで、これは科学少年ゴコロをくすぐられる。
(もちろん実際の計画への反映については専門家の方がしっかり吟味するとのことですが)


ところで、個人的に「火星」と聞くと、「マーズパスファインダー」という単語を思い出します。
今回の展示でも捜したらちらりと記載がありました。

ちなみに、「マーズパスファインダー」とは・・

マーズ・パスファインダー (Mars Pathfinder) は、アメリカ航空宇宙局(NASA) JPLディスカバリー計画の一環として行った火星探査計画、またはその探査機群の総称である。1996年12月4日に地球を発ち、7ヵ月の後、1997年7月4日に火星に着陸した。

この計画で、マーズ・パスファインダーは約1万6000枚の写真と、大量の大気や岩石のデータを送信した。1976年のバイキング2号以来、実に20年ぶりに火星に着陸した探査機となった。

また、従来のロケット推進を用いた軟着陸ではなく、惑星探査の低コスト化を図るためにエアバッグに全体を包み込んで惑星表面に突入し、地表でバウンドさせるという独特の着陸システムを確立し、今後の火星探査に大きく貢献することとなった。

wikipedia

たしか当時高校生だったか、テレビのニュースでこの単語を知って、映像を見た。

ローバーが、無事火星の地表を歩き回る姿、そして送られてきた映像をモニターして喚起に盛り上がるNASAの管制室。
抱き合って喜ぶ研究者たち・・・。

いかにもハリウッドSF映画にありそうな、陳腐な画だったと思う。
けれどなぜかすごく感動(茶の間だったから押さえてたけど実はもらい泣きしかかってた)してしまって、こうして今までこの「マーズ・パスファインダー」という名前が火星とセットで頭にこびりついていた。


たぶん「宇宙」とか「火星」とか「惑星探査」そのものではなくて、今まで誰もやったことのないなにやら物凄いことをみんなで成し遂げる、みたいなところに惹かれていたような気がする。いや、というより、プロジェクトの成功を喜び、それを素直に表現する人々の姿・・でしょうか。
(今思えば「演出」だったのかもしれないけれど)


ちなみに、私がその感動を胸に心を入れ替え、科学の道に進むべく真面目に勉学に励んでいたら、今頃宇宙飛行士になれていたどうかは不明。多分間に合わなかったことでしょう。




「マーズパスファインダー」についてwikipediaで調べたら、またしても泣きそうになってしまった。

ミッションの終了

当初、一週間から一ヶ月が寿命であろうと考えられていたローバーと着陸機であるが、着陸から83火星日後の9月27日10時23分(UTC)にパスファインダーとの通信が途絶するまで約三ヶ月間、駆動した。NASAは1998年3月10日までコンタクトの復元を試みたが、10月7日に短い信号を受信したのみで通信は回復しなかった。

通信途絶の原因は分かっていないが、ローバーではなく着陸機が低温のため故障した可能性が指摘されている。この場合、ローバーはあらかじめ「地球との通信が一定時間途絶した場合、着陸機に近づくこと、ただし着陸機には乗ってはいけない」とプログラムされていたことから、カール・セーガン記念基地のまわりをさながら子犬のごとく(故障するまで)廻っていたであろうと考えられる。

wikipedia


このところ「はやぶさ」や「あかつき」の話題が巷でも盛り上がっているようですが、やっぱり宇宙をとりまく人々の熱い視線を形容するのは、「科学」の対照にある「ロマン」という表現になってしまうのかしらん。




火星―ウソカラデタマコト

東京大学総合研究博物館(本館)
会期:2010年7月24日(土)〜10月30日(日)
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2010MARS.html